先日「イノベーション経営のための発想法」という研修の講師をしてきました。

 終わってから改めて考えてみると、やはり、なかなか難しいテーマでもあるようで、講師側から見ても、いろいろと気づきがありましたので、ちょっとずつ、まとめて行きたいと思います。
 まず「イノベーション」という言葉ですが、この言葉自体、人によって様々な捉え方があると思います。
 現在、ITコーディネータ協会でも、イノベーション関連のガイドラインが作られている最中なので、近々、協会としての見解は出るはずですが、ここでは、それはちょっと無視して(笑)、私なりにイノベーション経営についてまとめつつ、「発想法」という観点から、自分の考えを整理していこうと思います。その中で、少しでもヒントになる部分があれば、どんどんそれを使って頂きたいと思いますし、ご意見などがあれば、逆に教えてください。
 話を戻して「イノベーション」あるいは「イノベーション経営」という言葉の保つ意味ですが、自分なりに定義すると、「これまでの延長上にはない経営の仕方」と言えるのではないかと思います。
 日本語では「革新」と訳されることが多いですよね。何となく「改善」よりは、意味が強いような感じを受けます。
 「これまでの延長上にない」ということは、より広く、より高い視点が求められることになり、それが「発想」ということにつながってくるのだと思います。
 ところで、世の中には「発想法」と呼ばれるものはたくさん存在します。
 どのような発想法を使っても良いと思いますが、我々、ITコーディネータが「発想法」について語り、あるいは発想法を使うとき、そこには問題・課題というものが必ず存在しなければならないと思います。単に色々なことを思いつくアイディアマンであるというのではなく、クライアントの抱える問題を解決するために、より広く高い視野をもって、革新的な発想が出せるということこそ、ITコーディネータとしての存在意義なのではないでしょうか。
 ちょっと下の図を見て下さい。
改善と改革の違い
図 改善と革新の違い
 図の中の赤い丸が、現在の状態だと考えて下さい。
 また、黒い線で示されている起伏の高さが好ましい状態(目的や機能の達成度など)を表し、低い位置ほど、好ましい状態だと考えることにしましょう。
 これまでの問題解決法では、現状を起点として、そこから矢印のように様々な方向に試行錯誤的に発想を膨らませていきます。
 そのようにして考えられた、いくつかの改善策の中で、現状より、低い位置に行く改善策が取られてきたのが、これまでの方法です。
 もちろん、そのような方法でも現状から改善はして行きますが、ある時点で、谷間(Local Minimum)に落ち込み、行き詰まってしまう可能性があります。しかし、より広い視点、より高い視点から見た場合、山の向こう側に更に好ましい状態があるということがわかります。この山を超えるには、ふたつの方法が考えられます。
  1. 一見無駄に見えるような動きを許し、最適な方向以外への変化(場合によっては改悪)を促す環境の整備。
    (物理的に言うと、赤い丸に外部からエネルギーを与えるということに相当します)
  2. 当初から、最適な解(図でいえば、一番右側の谷)を設定し、そちらの方向に赤い丸を動かす。
 2.は、現状から改善していくという発想ではなく、最初から理想的な状況(それは、企業から見た場合と、顧客から見た場合、あるいは社会から見た場合でそれぞれ異なる可能性もありますが)を設定し、そちらの視点から考えていくという発想です。
 ロシア発の問題解決法であるTRIZでは、究極の理想解(Ideal Final Result, IFR)という考え方があり、IFR = 効用 / (コスト+害) という式で表されます。
 VEでも同じような式が出てきますが、イノベーション経営ということを考えた場合、「効用」というのは、「今の機能をより良くする」というより「目的を達成する」ということを考えた方が良いでしょう。企業の存在価値と言い換えても良いかもしれません。
 ここで、「機能」と「目的」を明確に分けて考えることが大切です。
 例えば、「売上を上げる」、「利益を上げる」というのは、企業の大きな目的では有りますが、一方で、企業理念、企業のミッションを実現するための「手段」でもあるわけです。もちろん、「生産手段を革新的なものにする」などのイノベーションというのもありますから、先に述べたように「課題・問題をどこに設定するか」というのは、非常に重要になってきます。
 さて、先程の「究極の理想解」ですが、「効用」は、最終的には∞(無限大)に、コストと害は、0になるのが理想的です。企業にとって効用、あるいは存在価値というのは、何であるのか、しっかりと考えることが大切です。
 例えばパン屋さんであれば、
  • 美味しいパンをお客様に届ける
  • お客様が欲しい時に、焼きたてのパンがある
  • たくさんの種類のパンが売られている
  • 食事を通じて生活にゆとりを与える
  • 健康的な食生活のお手伝いをする
などが考えられるでしょう。
 コストや害は、原材料費や、製造・販売の人件費、燃料光熱費、広告宣伝費、廃棄ロス、販売ロス、CO2排出、生産時に出るゴミ、食中毒の危険性などなど、こちらも様々なものが考えられるでしょう。
 ここから、効用を最大化、コストや害を最小化できた理想像を考え、そこから逆に考えていくことに寄って、現状の制約条件に縛られること無く、自由な発想で考えることができます。
 革新の大きな阻害要因として「心理的惰性」というものがあります。
 これを外すだけでも、かなり自由な発想ができるようになってくるでしょう。
 ブレインストーミングのルールの1つとして「批判禁止」というものがあるというのも、そのような心理的な制約を外すというのが理由の一つです。